
オフィスビル、商業施設、病院、学校 – これらの建物で毎日のように通る防火戸。普段は開いたままで通行の邪魔にならず、火災時には自動で閉まって延焼を防ぐ、この便利な仕組みをご存知でしょうか。
実は、この「普段は開いていて、火災時に自動で閉まる」という便利な機能を実現しているのが「レリーズ」という装置です。防火戸に取り付けられたレリーズは、建物内の安全な移動と、火災時の確実な防火区画の形成という、相反する要求を両立させる重要な役割を担っています。
この記事では、レリーズの基本的な仕組みから、各方式の特徴、法規制、製品選定のポイントまで、防火設備に関わる方々に必要な情報を分かりやすく解説していきます。
レリーズとは?

「レリーズ」という言葉は、英語の「release(解放する)」に由来します。
レリーズとは、防火戸を通常時は開放状態に保持し、火災時に自動で閉鎖させる建築用の防災設備です。建物内の人々の日常的な往来を妨げることなく、火災時には確実に防火区画を形成する役割を担っています。建物の防災において重要な役割を果たすこの装置について見ていきましょう。
防火戸(防火扉)に使われるレリーズの仕組み
火災が発生して感知器が作動すると、扉が自動的に閉まる仕組みとなっています。この単純でありながら確実な動作原理により、火災時の延焼を防ぎ、建物内にいる人の安全な避難を可能にします。
レリーズの設置が必要な場所と法規制
建物の中で火災が発生した場合、火や煙が建物全体に広がるのを防ぐため、建物は複数の区画に分けられています。この区画のことを「防火区画」と呼びます。レリーズ付きの防火扉は、この区画の出入口に設置することが法律で定められています。
オフィスビルでは、エレベーターホールと執務室をつなぐ出入口や、非常階段への入口、長い廊下の途中に設置されています。
商業施設では、バックヤードと売り場の境界、レストラン街と物販エリアの区切り、立体駐車場への通路などに見られます。
医療施設では、病棟とナースステーションの区画、手術室エリアの出入口、外来と入院エリアの境界に設置されています。
教育施設では、教室棟と体育館をつなぐ渡り廊下や、図書館、実験室などの教室への入口でよく見かけます。
集合住宅でも、エレベーターホールや非常階段の入口、住戸玄関前の共用廊下などで目にすることがあります。
これらの場所に設置されたレリーズのある防火戸は、普段は開放状態で人々の往来を妨げることなく、火災時には確実に閉鎖して延焼を防ぎ、避難経路を確保する重要な役割を果たしています。
電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」の特長と機能

電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」は、防火戸を通常時は開放状態に保持し、火災時には自動で閉鎖させる防災設備です。この装置は、世界標準のフェイルセーフ方式(※)(火災時停電式)を採用しており、火災時や停電時に確実にドアを閉鎖する仕組みを持っています。
※フェイルセーフ方式とは、「故障や停電時でも安全側に作動する」という概念です。電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」の場合、電気が切れると自動的に扉が閉まる仕組みを採用しています。
具体的な動作としては、通常時は電源供給により扉を開放状態に保持し、火報連動制御盤「パワーサプライ」との連携で、火災時に火災信号と連動して電源を遮断することで扉を閉鎖し、煙や炎の延焼を防ぐことができます。マグネット・ドアホルダーは、50万回という開閉試験をクリアしています。また、販売・施工実績として4,500台を突破しており、東京ミッドタウン八重洲や渋谷スクランブルスクエアなど、多くの大規模な建物での採用実績があります。
用途としては、オフィスや病院、文化施設、学校施設、百貨店、工場など、多くの人が出入りする建物に適しています。常時閉鎖式の防火戸及び随時閉鎖式の防火戸を開放して使用することが可能です。
本体のドア解除ボタン、または壁付けのスイッチによって手動でも扉を閉めることができ、タイマーを組み込んで定時で自動的に閉める運用や、リモコンによる遠隔操作なども可能です。
電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」の仕組み
電磁レリーズは、本体側の電磁ユニットと、扉側に取り付けられるアーマチュアプレートという2つの部分で構成されています。通常時は、電源供給(24VDC)により、本体側の磁力でアーマチュアプレートを吸着し、扉を開放状態に保持します。
火災時の動作は以下の流れとなります:
- 1
煙感知器が火災と煙を感知
- 2
火報連動制御盤「パワーサプライ」が信号を受信
- 3
電磁レリーズへの電源供給を遮断
- 4
磁力が解除され、ドアクローザーの力で扉が自動的に閉鎖
フェイルセーフ方式の電源が切れることで作動する設計となっており、火災による配線の焼損や停電時でも、確実に扉を閉めることができます。
火報連動制御盤「パワーサプライ」による制御の仕組みと特長
電磁レリーズは、パワーサプライという火報連動制御盤によって制御されています。まず、パワーサプライは電気(100V)を受け取り、これを電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」が使用できる24Vの電気に変換します。この電気が常にマグネット・ドアホルダーに送られることで、普段は扉が開いた状態を保つことができます。
火災が発生した場合、建物の煙感知器が察知し、パワーサプライにすぐに知らせます。パワーサプライはこの信号を受け取ると、即座にマグネット・ドアホルダーへの電気供給を止めます。電気が止まることで磁石の力が解除され、扉が自動的に閉まるという仕組みです。さらに安全性を高めるため、パワーサプライには非常用バッテリーも搭載でき、建物全体が停電しても30分以上、長時間バッテリーの場合5時間以上、正常に動作し続けることができます。
また、1つのパワーサプライで最大6台のマグネット・ドアホルダーを制御できます。制御できるのは、同じフロアの同じ防火区画内に限られます。異なるフロアやテナントの場合は、それぞれに専用のパワーサプライを設置する必要があります。
電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」と他社「ラッチ式」との比較・違い
防火戸用の閉鎖装置として使用されてきたラッチ式レリーズに対し、電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」は電磁力を利用した防災設備です。構造がシンプルでありながら、高い信頼性を実現します。
仕組みの違い
従来のラッチ式レリーズ装置と電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」の最も大きな違いは、その動作原理にあります。ラッチ式レリーズは、通常時は機械的に扉を保持し、火災時に通電して解放する仕組みを採用していました。しかし、この方式では火災による電線の損傷で作動不能となるリスクが避けられませんでした。
ラッチ式に対し、電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」は、通常時に電気を供給して扉を保持し、火災時には電源を遮断して閉鎖するという、まったく逆の発想を採用しています。そのため、電源喪失や電線損傷といった異常事態でも、確実に扉を閉扉し、防火区画を形成することが可能となりました。
電磁レリーズの保守・メンテナンス面での優位性
従来のラッチ式は、ラッチ機構を使用しているため、可動部分が多く、経年での故障リスクが避けられませんでした。一方、電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」は電磁力による保持という単純な仕組みを採用しており、可動部分を最小限に抑えることで、約50万回という驚異的な開閉試験をクリアしています。さらに、電気的な動作確認が可能なため、点検作業も効率的に行えます。
防火戸用の電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」は、従来のラッチ式レリーズの課題を解決した革新的な防災設備です。通常時は電磁力で扉を保持し、火災時には電源を遮断して確実に閉鎖するという単純明快な仕組みにより、高い信頼性を実現しています。
電磁レリーズの防火設備としての法的要件

防火戸とその閉鎖装置は、火災時の人命安全に直結する重要な防災設備です。その設置や性能については、建築基準法によって厳格な基準が定められています。ここでは、電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」が、これらの法的要件をどのように満たしているのかを解説します。
建築基準法における電磁レリーズの位置づけ
建築設備としての電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」は、建築基準法告示第2563号に基づく「随時閉鎖することができる構造の防火設備」として認められています。この規定では、防火区画を形成する上で重要な4つの要素が定められています。
防火区画形成の4つの要素:
- 1
煙感知器または熱煙複合式感知器との連動
- 2
連動制御器との接続
- 3
自動閉鎖装置としての機能
- 4
予備電源の設置
出典:国土交通省(2017). “防火区画に用いる防火設備等の構造方法を定める件”.
https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201703/00006615.pdf
(最終閲覧日 2025-01-31)
建築基準法告示第2563号で定められた要件を、電磁レリーズでは以下のように満たしています:
- 1煙感知器との連動
・煙感知器または熱煙複合式感知器が火災を感知
・感知器からの信号を制御盤が受信
・信号は耐熱ケーブル(HP線)で確実に伝達 - 2連動制御器(パワーサプライ)との接続
・火災信号を受けて24VDCの電源を自動遮断
・アンサーバック信号により動作確認
・最大6台までの電磁レリーズを管理 - 3
自動閉鎖装置としての機能
・電源遮断で磁力が解除され、自動的に閉鎖
・ドアクローザーとの連携で確実な閉鎖を実現
・フェイルセーフ方式(停電時電源遮断)による高い信頼性 - 4
予備電源の確保
・オプションの非常用バッテリー(20-101A)を選択可能
導入時は停電後30分以上の作動を確保(建築基準法準拠)
・より長時間の保証が必要な場合は大容量バッテリー(NP7-12)も選択可能
約5時間以上の作動を確保
防火戸での使用について
マグネット・ドアホルダーは、常時閉鎖式と随時閉鎖式のどちらの防火戸にも使用できます。その際は、建築設備として適切な設置が求められます。例えば、感知器との確実な連動や、停電時でも確実に作動する予備電源の確保など、安全性を担保するための要件を満たす必要があります。
このように、電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」は、建築基準法に基づく要件を満たしながら、実際の火災時にも確実に機能する信頼性の高いシステムとして設計されています。
用途や環境に応じた電磁レリーズの選び方
防火戸用の電磁レリーズは、建物の用途や設置環境によって最適な製品が異なります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
床付型 電磁レリーズ
最も採用実績の多い標準タイプです。GD850F/GD900Fシリーズは、オフィスビルや工場、会議室など、幅広い用途で使用されています。保持力は約36kgで、一般的な防火戸に十分な性能を発揮します。
新製品のGD700F-WPは防水仕様を実現し、水周りや屋外に近い場所でも安心して使用できます。
壁付型 電磁レリーズ
GD840S/GD860Sシリーズは、新築から改修まで対応できる汎用性が特徴です。特にGD860Sは黒と白のカラーバリエーションがあり、建物の意匠に合わせて選択できます。また、防水仕様のGD760S-WPも新たにラインナップに加わりました。
壁埋込型 電磁レリーズ
GD650S-24-100/105シリーズは、新築物件での採用が多く、美観を重視する場合の最適解です。特に新製品のGD650S-24-105は、大型のフェイスプレート(105mm×105mm)を採用し、より高級感のある仕上がりを実現しています。
引き戸用 電磁レリーズ
GD80SLDは、引き戸の防火区画に最適です。また、ロッカーやキャビネットロックにも対応した製品です。新製品のGL-80FR-24は防爆仕様を実現し、工場や研究施設など、特殊環境での使用を可能にしました。
大型防火戸用 電磁レリーズ
RM-90は約250kg以下の保持力を持ち、劇場、美術館、工場、博物館、銀行などの大型防火戸に対応します。ステンレス製の堅牢な構造で、高い信頼性が求められる重要施設での使用に適しています。
アーマチュアプレートの種類と選び方
自動調整式のAタイプは、円形プレートの中心部が可動する構造により、扉の動きに合わせて自然に角度が調整される設計となっています。この機構により、扉の微妙な歪みや取付時の誤差を自動的に吸収し、常に最適な接触状態を維持します。一般的な設置条件では、このAタイプを選択することで、調整の手間を最小限に抑えることができます。
横振調整式のBタイプは、M4皿ビスによる手動での角度調整機構を備えており、より細かな調整が必要な場合に適しています。また、Bタイプはエクステンションオプション(※)との組み合わせが可能で、取付距離に余裕が必要な場合にも対応できます。
※エクステンションオプションは、電磁レリーズ本体と扉との距離を延長する必要がある場合に使用する部品です。エクステンションオプションは横振調整式のBタイプにのみ対応しています。
通常の設置では自動調整式のAタイプで十分な性能が得られますが、建具の特性や設置環境によっては、調整機能を重視したBタイプも選択肢として有効です。扉の重量、開閉頻度、取付条件など、様々な要素を考慮して最適なタイプを選択することが重要です。
パワーサプライ制御盤
PSU520-24Vは、システム全体の制御を担う心臓部です。最大6台のレリーズを同時制御でき、オプションの非常用バッテリー(20-101A)や大容量バッテリー(NP7-12)との組み合わせで、停電時の信頼性も確保できます。
全ての製品で基本的に24VDCの操作電圧を採用し、フェイルセーフ方式による確実な作動を実現しています。また、取り付け用のビスや必要な付属品が同梱されており、施工性も安心です。アーマチュアプレートには自動調整式(Aタイプ)と横振調整式(Bタイプ)があり、設置条件に応じて選択できます。
製品選定の際は、これらの特徴を踏まえつつ、建物の用途や要求される性能、設置環境を総合的に判断することが重要です。また、将来的なメンテナンス性や拡張性も考慮に入れることをお勧めします。
信頼性の高い防火設備を目指して
防火戸のレリーズ装置は、日常の利便性と火災時の安全性を両立する重要な防災設備です。特に電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」は、電源が切れると扉が閉まるというシンプルな原理により、高い信頼性を実現しています。開閉試験50万回という耐久性と4,500台を超える納入実績が、その性能の確かさを証明しています。
また、防水・防爆仕様の追加により、従来は対応が難しかった特殊環境でも使用が可能になりました。床付型、壁付型、壁埋込型、引き戸用、大型防火戸用など、豊富なラインナップで、あらゆる建築用途に対応できます。
建築基準法の要件を満たしながら、実際の使用環境に応じた最適な製品選定が可能です。パワーサプライによる電気供給や管理、バックアップ電源による停電対策など、システム全体での信頼性も確保されています。
建物の防災性能を支える重要な設備として、今後も技術革新と実績を重ねながら、より安全で使いやすい製品開発を続けていきます。製品選定の際は、これらの情報を参考に、建物の特性や要件に最適な製品をお選びください。
当社では防火戸用 電磁レリーズの
工事・メンテナンスを承ります!

防災設備 自動閉鎖装置
電磁レリーズ
当社では、防火戸用電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」の販売、新規工事・改修工事・メンテナンス工事を行っております。 新築物件では、建物やドアの用途、防火区画の要件を考慮し、最適な電磁レリーズをご提案いたします。オフィスビルや商業施設など、多くの方が利用する建物では、日常の利便性と火災時の安全性を両立した提案を行っています。
既存の防火戸についても、電磁レリーズへの改修工事が可能です。工事期間を最小限に抑え、通常の施設運営に支障が出ないよう配慮しながら作業を進めます。床付型、壁付型、壁埋込型など、建物の状況に応じた最適な取付方式をご提案いたします。
導入後のメンテナンスも万全の体制で承っています。50万回の開閉試験をクリアした高い耐久性を持つ製品ですが、定期的な点検により、不具合の早期発見や予防保全を行い、火災時の確実な作動を保証します。
当社の電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」は、シンプルな構造と高い信頼性を兼ね備えた防火設備です。特に、新たに加わった防水・防爆仕様により、より幅広い設置環境でご使用いただけます。4,500台を超える納入実績が、その信頼性を証明しています。
お問い合わせは、弊社ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」にて承っております。設計、施工、メンテナンスまで、一貫した体制で皆様の建物の防災性能向上をサポートさせていただきます。