
RBA行動規範とは、世界のサプライチェーンで働く人の人権や安全、環境、企業倫理を守るための国際的な共通基準です。電子機器や自動車などの大手メーカーを中心に600社以上が加盟しており、会員企業と取引のあるサプライヤーは、自社が会員でなくても対応を求められることがあります。
一方でRBA対応の実務では、SAQ、VAP、監査といった聞き慣れない言葉も多く、対応の要否や進め方を判断しにくいのが実情です。
この記事では、RBA行動規範の基礎知識、5つのセクションの内容、最新版8.0の変更点、SAQとVAP監査の仕組み、監査で指摘されやすいポイントまでを、順を追って解説します。また、大手企業の監査データで指摘の多さが裏付けられている「非常口・避難経路」については、日本の法令との関係と、当社の設備による解決策まで紹介します。
RBA行動規範とは?

RBA行動規範とは、世界のサプライチェーンで働く人の人権や安全、環境、企業倫理を守るための国際的な共通基準です。取引先がRBAの会員企業であれば、会員ではない企業にも対応が求められます。
RBA(責任あるビジネス・アライアンス)とは
RBAは、2004年に設立された国際的な企業連合です。正式名称は「Responsible Business Alliance(責任あるビジネス・アライアンス)」。もともとは電子業界の団体で「EICC」という名前でしたが、自動車・小売・玩具など参加業界が広がったことから、2017年10月に現在の名称に変わりました。
まずは、RBA行動規範の規模を数字で見ていきましょう。
加盟企業
関連イニシアチブを含む
600社以上
年間収益の合計
加盟企業全体の合算
8兆ドル超
労働者
加盟企業による直接雇用
2,150万人以上
製品の製造国
世界中に広がる生産拠点
120カ国以上
世界の名だたるメーカーの多くが、この共通ルールのもとでつながっている、それがRBA行動規範です。
出典:Responsible Business Alliance「About the RBA」
https://www.responsiblebusiness.org/about/rba/
基本原則は「いちばん厳しい基準に合わせる」
RBA行動規範には、最初に知っておきたい大原則があります。規範の内容と法律が違うときは、より厳しいほうを守る、というものです。
たとえば、日本の法律では問題のない運用でも、RBAの基準のほうが厳しければ、そちらに合わせる必要があります。「法律は守っているのに、なぜ指摘されるのか」監査の場でよく生まれるこの疑問の答えは、たいていこの原則にあります。
さらに第三者監査(VAP)では、「現地の法律」「RBA規範」「取引先の要求」の3つのうち、最も厳しいものが判定の基準になります。
なぜ日本企業にも対応が求められるのか
「自社はRBAに加盟していないのに、なぜ対応を求められるのだろう」取引先から要請を受けて、そう疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。加盟した覚えのないルールへの対応を求められるのですから、戸惑うのは当然です。
その答えは、RBAの仕組みにあります。会員企業は、自社が規範を守るだけでなく、部品や材料を納めてくれるサプライヤーにも、同じルールを守るよう求めることになっています。規範は、サプライチェーンをたどって取引先から取引先へと引き継がれていきます。
実際に、キオクシア・エプソン・キヤノンといった大手メーカーは、RBA行動規範をもとにした行動規範をサプライヤーに示し、その遵守を求めています。取引先からの要請は、こうした連鎖の中で生まれていきます。
大切な取引先との関係を守っていくうえで、RBA行動規範への対応は、避けて通れないテーマになりつつあります。
RBA行動規範の5つのセクション

RBA行動規範は、「労働」「安全衛生」「環境」「倫理」の4分野の基準(セクションA〜D)と、それを守り続ける仕組みを定めた「マネジメントシステム」(セクションE)の、あわせて5セクション・計42項目で構成されています。
RBA行動規範の5つのセクション|何が定められているのか
RBA行動規範は、「4つの分野」と紹介されることも「5つのセクション」と紹介されることもありますが、どちらも間違いではありません。
規範の本体は、「何を守るか」を定めたA〜Dの4分野です。そこに、「守れている状態をどう続けるか」という仕組みの章(E)が加わり、全体で5つのセクションになります。この2階建ての構造を押さえると、規範の全体像が理解しやすくなります。
RBA行動規範:何を守るかを定めたA~Dの「4つの分野」
A. 労働
全6項目
A1強制労働の禁止
A2若年労働者
A3労働時間
A4賃金および福利厚生
A5差別の排除/ハラスメントの禁止/人道的待遇
A6結社の自由および団体交渉
B. 安全衛生
全8項目
B1労働安全衛生
B2緊急時への備え
B3労働災害および疾病
B4産業衛生
B5身体に負荷のかかる作業
B6機械の安全対策
B7衛生設備、食事、および住居
B8安全衛生に関する連絡
C. 環境
全8項目
C1環境許可と報告
C2汚染防止と資源保護
C3有害物質
C4固形廃棄物
C5大気への排出
C6資材の制限
C7水の管理
C8エネルギー消費および温室効果ガスの排出
D. 倫理
全8項目
D1ビジネスインテグリティ
D2不適切な利益の排除
D3情報の開示
D4知的財産
D5公正なビジネス、広告、および競争
D6身元の保護と報復の禁止
D7責任ある鉱物調達
D8プライバシー
守り続けるための土台
E. マネジメントシステム
全12項目
E1企業のコミットメント
E2経営者の説明責任と責任
E3法的要件および顧客の要件
E4リスク評価とリスク管理
E5改善目標
E6トレーニング
E7コミュニケーション
E8労働者/ステークホルダーの関与と救済へのアクセス
E9監査および評価
E10是正措置プロセス
E11文書化と記録
E12サプライヤーの責任
RBA行動規範 v8.0:5セクション・計42項目の全体構造
A. 労働(6項目)──働く人を、人として大切に扱う
セクションAは、強制労働や児童労働の禁止、賃金、労働時間、差別・ハラスメントの禁止、結社の自由など、働く人の人権を守るための基準です。正社員だけでなく、派遣社員や外国人労働者、学生など、あらゆる立場の労働者に適用されます。
具体的な数字も定められています。労働時間は、緊急時を除き、時間外労働を含めて週60時間以内とされています。時間外労働はすべて自発的でなければならず、7日間に1日以上の休日を与えることが求められます。
日本企業が見落としやすいのは、賃金の項目にある「懲戒・懲罰処分としての賃金からの控除は認められません」という一文です。懲戒としての減給規定は日本の就業規則では珍しくありませんが、RBAの基準では不適合と判断されるおそれがあります。
B. 安全衛生(8項目)──ケガなく働き、確実に逃げられる職場
セクションBは、危険源の特定と対策、労働災害の記録と報告、寮や食堂の衛生など、8つの項目からなる基準です。その中で本記事が特に注目したいのが、2番目の「緊急時への備え」です。原文には次のように書かれています。
RBA行動規範 v8.0「B2. 緊急時への備え」より
「緊急対策には、適切な火災報知器および消火設備、分かり易く障害物のない出口、適切な非常口のある施設、緊急対応にあたる人員の連絡先情報、および復旧計画なども含まれなければなりません」
防災訓練は、少なくとも年に1度、または現地法の定めのいずれか厳しい頻度で実施しなければなりません。また、7番目の項目は、会社が提供する寮にも「適切な緊急時の非常口」を求めています。非常口の確保は、工場だけでなく生活施設にまで及ぶ要求です。
安全衛生は、方針書や手順書を整えるだけでは完結しません。非常口や避難経路の状態は、監査で実際に現場を歩いて確認されます。
C. 環境(8項目)──事業の環境負荷を、把握して減らす
セクションCは、環境関連の許認可、有害物質や廃棄物の管理、大気・水の管理など、環境への責任を定めた基準です。
v8.0で特に強化されたのが、8番目の「エネルギー消費および温室効果ガスの排出」です。全社的な温室効果ガス削減目標を設定・報告したうえで、スコープ1・2に加え、スコープ3(サプライチェーン全体の排出)の重要なカテゴリーまで追跡し、公表することが求められます。目標を作るだけでなく、公表するところまでが要求である点に注意が必要です。
D. 倫理(8項目)──クリーンで公正なビジネスを行う
セクションDは、贈収賄・腐敗の禁止、情報の適切な開示、知的財産の尊重、内部告発者の保護、プライバシーなど、企業倫理の基準です。
実務への影響が大きいのは、7番目の「責任ある鉱物調達」です。対象となる鉱物は、タンタル・スズ・タングステン・金(いわゆる3TG)に加え、v8.0からコバルトが追加されました。3TGのみを前提とした従来の調査体制のままでは、対応が漏れる可能性があります。
E. マネジメントシステム(12項目)──A〜Dを「続ける」ための仕組み
最後のセクションEは、A〜Dとは性格が異なります。個別のルールではなく、それらを守り続けるための仕組みとして、方針の策定、責任者の明確化、リスク評価、教育、自己評価と是正、記録の保持などを定めています。
つまり、「たまたま守れている」状態では足りず、「守り続けられる仕組みがあるか」までが評価の対象になります。v8.0ではさらに、労働者やステークホルダー(直接的・間接的に影響を受けるすべての利害関係者)との双方向コミュニケーションや、報復を恐れずに苦情を伝えられる環境づくりも求められるようになりました。
そして見逃せないのが、12番目の「サプライヤーの責任」です。規範の要求を自社のサプライヤー(供給元や納入業者)に伝え、遵守状況を確認することです。「規範が取引先から取引先へと引き継がれていく連鎖」は、この項目から生まれています。
RBA行動規範の最新版は「バージョン8.0」|7.0からの変更点

RBA行動規範の現行版はバージョン8.0(v8.0)です。2024年1月1日に発効し、取引先から求められる自己評価(SAQ)や監査(VAP)も、このv8.0を基準に行われています。
なお、2025年11月に前文(序文)だけを手直しした「v8.0.1」が公表されていますが、A〜Eの要求事項(条文)に変更はありません。公式サイトの案内も「バージョン8.0」のままなので、実務上は「最新版=v8.0」という理解で問題ありません。
v7.0→v8.0の主な変更点
v8.0改訂の背景にあるのが、人権デューデリジェンス(自社や取引先で人権侵害がないかを調べ、問題があれば直す取り組み)の広がりです。欧州を中心に企業への義務化が進んでいます。この流れと気候変動対応の要請を受けて、v8.0では次の項目が大きく変わりました。
| 変わった項目 | どう変わった? |
|---|---|
| ①強制労働 | 「禁止」と言い切る形に強化 |
| ②賃金 | 同じ仕事なら同じ賃金に |
| ③温室効果ガス | 目標は「総量」、報告は取引先の分まで |
| ④鉱物調達 | 調べる鉱物にコバルトを追加 |
| ⑤労働者の声 | 「聞く」だけでなく「解決する窓口」まで |
それぞれ、実務にどう関わるのかを順番に見ていきます。
① 強制労働|「禁止」と正面から言い切る形に
項目の名前が「自由に選択された雇用」から「強制労働の禁止」に変わりました。パスポートを会社が預からない、仕事の紹介手数料を労働者本人に負担させない、といった中身は従来からありますが、v8.0では「禁止」を正面に掲げて姿勢を明確にしています。外国人労働者や技能実習生を雇用している場合、監査で特に確認される項目です。
② 賃金|「同一労働同一賃金」が明文化
同じ仕事・同じ資格であれば同じ賃金を支払うことが、新たに明記されました。たとえば正社員と派遣社員が同じラインで同じ作業をしているなら、その賃金差を合理的に説明できるかがポイントになります。
③ 温室効果ガス|目標は「総量」で、報告は「Scope3」まで
「Scope(スコープ)」とは、排出を「どこから出たか」で3つに分けた区分のことです。
Scope1|自社から直接出る排出(工場のボイラー、社用車など)
Scope2|購入した電気や熱をつくる過程での排出
Scope3|上記以外の、サプライチェーン全体の排出(原材料の調達、輸送、出張など)
これまで求められていたのはScope1・2の把握と報告まででしたが、v8.0ではScope3の重要な部分まで対象が広がり、社外への公開報告が必要になりました。
削減目標の立て方も変わりました。v8.0で求められるのは「絶対量(総量)」、つまり「売上100万円あたりの排出量」のような比率ではなく、排出量そのものを減らす目標です。生産が増えても総量は減らさなければならないため、多くの企業にとってここが実務上いちばんのハードルになります。
④ 鉱物調達|チェック対象にコバルトが追加
紛争地域で武装勢力の資金源になりやすい鉱物は、調達ルートの確認(デューデリジェンス)が求められます。従来の対象はタンタル・スズ・タングステン・金の4つ(英語の頭文字をとって「3TG」と呼ばれます)でしたが、v8.0でEVバッテリーなどに使われる「コバルト」が加わり、5鉱物になりました。電子部品や電池関連の調達に関わる企業は、確認範囲が広がります。
⑤ 労働者の声|「聞く」から「解決する」へ
旧版でも、労働者の意見や苦情を受け付ける仕組みは求められていました。v8.0ではさらに進んで、会社と労働者が継続的に双方向でやりとりすること、そして相談が実際の解決(救済)につながる窓口があることまで求められます。実務では、通報・相談窓口の整備と、それを労働者に周知することがポイントです。
なお、v8.0の変更点については、ネット上に不正確な情報も少なくありません。対応方針を決める前に、必ず次に紹介する公式原文で該当条文を確認することをおすすめします。
出典:RBA行動規範 バージョン8.0(日本語版PDF)https://www.responsiblebusiness.org/media/docs/RBACodeofConduct8.0_Japanese.pdf
(規範の原文は英語で、公式サイトでは英語版のほか日本語を含む各国語版が公開されています。翻訳版と内容に差異がある場合は、英語版が優先されます。)
出典:Code of Conduct|Responsible Business Alliance(公式サイト・各国語版の一覧)https://www.responsiblebusiness.org/code-of-conduct/
RBA行動規範を守れているかを確認する「SAQ」と「VAP監査」

RBA行動規範を守れているかどうかは、2段階で確認されます。自社で回答する「SAQ(自己評価の質問票)」と、必要に応じて第三者が現場までやって来る「VAP監査」です。VAP監査は200点満点で採点され、成績に応じてPlatinum・Gold・Silverの3つの認定が用意されています。それぞれの仕組みを順番に見ていきます。
SAQ|まず自社でチェックする「質問票」
SAQ(自己評価質問票)は、規範の内容に沿って「自社はできているか」を自分たちで答える、アンケート形式の調査票です。取引先から最初に届く依頼は、たいていこのSAQの提出です。
回答をもとに、労働・安全衛生・環境・倫理のリスクが評価されます。ここで「リスクが高い」と判断されると、次の段階として、第三者による監査(VAP)を受けるよう求められることがあります。
VAP|第三者が「現場」まで確認しに来る監査
VAPは、RBAが認定した監査機関(検査を専門に行う外部の会社)が、現場で行う監査です。監査は会社全体に対してではなく、施設(サイト)単位で行われます。主な対象は工場ですが、サービスを提供する事業拠点が監査を受けるケースもあります。
監査で確認されるのは、次の3つです。
書類|就業規則、労働時間の記録、教育や点検の記録など
現場|監査員が実際に歩いて、設備や非常口の状態を確認
人|働いている人への聞き取り(インタビュー)
判定の基準は「現地の法律」「RBA規範」「取引先の要求」の3つのうち、最も厳しいものです。日本の法律を守っているだけでは指摘を受ける場合がある、という点に注意が必要です。
監査で見つかった問題(不適合)は、重さに応じて3段階に分けられます。
Priority(最重要)|ただちに対応が必要な重大な問題
Major(重大)|Priorityに次ぐ重い問題
Minor(軽微)|比較的軽い問題
これらの区分が、次の認定に関わってきます。
成績は200点満点|認定は3つのランク
VAP監査は200点満点で採点されます。点数と、指摘された問題をどこまで直したか(是正したか)に応じて、次の認定が与えられます。
| 認定 | 点数 | 指摘をどこまで直したか |
|---|---|---|
| Platinum | 200点(満点) | すべての指摘(Priority・Major・Minor)を直した |
| Gold | 180点以上 | Priority・Majorを直した |
| Silver | 160点以上 | Priorityを直した |
なお、この認定の対象となるのは、工場(製造施設)のフル監査のみです。
監査報告書は、原則2年間有効です。この間は、1回の監査結果を複数の取引先に示すことができます。取引先ごとに監査を受け直す負担が減るため、認定の取得は「守りの対応」であると同時に、営業面のメリットにもなります。
実際に満点を取得した日本企業もあります
200点満点と聞くと、遠い目標に感じるかもしれません。しかし実際には、国内の工場だけでも次のような取得例があります。
京セラ|長野岡谷工場など複数の工場が200点満点でPlatinum認定を取得(2024年)
ブラザー工業|星崎工場(名古屋市)が200点満点でPlatinum認定を取得(2024年)
TOPPAN|新潟工場が最高評価のPlatinum認定を取得(2025年)
RBA対応の証明は、SAQで自社の現状を整理し、必要に応じてVAPで第三者の確認を受ける、この2段階で進みます。まずは、取引先から求められているのがどちらの段階なのかを確認するところから始めると、やるべきことがより明確になります。
監査ではどこが指摘されやすい?公開データからわかる頻出ポイント

監査で何を指摘されるかは、「受けてみないとわからない」そう思われがちですが、実は手がかりがあります。大手メーカーの中には、自社サプライチェーンの監査結果を毎年公開している企業があるからです。そのデータからは、指摘が集中する分野がはっきり読み取れます。結論から申し上げると、「労働時間」と「緊急時への備え(非常口・避難訓練)」です。
米大手2社のデータ|最も多い指摘は「労働時間」と「緊急時への備え」
CiscoとAMDは、RBA会員企業として世界中のサプライヤー工場にVAP監査を受けさせ、その結果の傾向を毎年公開しています。多数の工場の監査結果が集まる、貴重なデータです。両社の最新の公開内容を整理すると、次のようになります。
| 企業 | 監査の規模 | 公開データからわかること |
|---|---|---|
| Cisco(2025年度) | サプライヤー179施設、対象労働者43万人超 | 「労働時間と緊急時への備えが、不適合の最大の割合を占め続けている」と明記。頻出指摘の一覧に「緊急時への備え(非常口と避難訓練)」 |
| AMD(2024年) | 初回監査44件 | 全指摘の73%がMajor(重大)に分類。その内訳に「労働時間」「賃金と福利厚生」と並んで「緊急時への備え」 |
まずCiscoです。同社は2025年度、サプライヤー179施設で監査を実施しました。対象となった労働者は43万人を超えます。その報告の中で同社は、「労働時間と緊急時への備えが、不適合の最大の割合を占め続けている」と明記しています。頻出指摘の一覧にも「緊急時への備え(非常口と避難訓練)」が挙げられています。
Ciscoが公開している具体的な指摘例には、次のようなものがあります。
非常口が足りない
出口や避難経路が物でふさがれている
扉がワンアクション(1動作)で開かない
防火扉が適切でない
AMDも同じ傾向です。2024年に44件の初回VAP監査を実施したところ、指摘全体の73%がMajor(重大)に分類されました。そのMajor指摘の内訳に、「労働時間」「賃金と福利厚生」と並んで「緊急時への備え」が入っています。
非常口の指摘は、大手でも起こる
非常口まわりの指摘は、経験の浅い会社だけの話ではありません。サムスンが公開しているVAP監査の要約(2024年12月時点)には、「非常口ドアの開く方向」と「避難経路の障害物の管理」に関する指摘と、その是正の記録が載っています。世界最大級のメーカーの現場でも起こる指摘だからこそ、どの工場にとっても他人事ではないといえます。
ここで紹介したのは各社が公開する自社サプライチェーンのデータであり、RBA全体の統計ではありませんが、それでも、別々の企業のデータがそろって同じ傾向を示している点は、見逃せません。
日本の現場がつまずきやすい5つのポイント
公開データと規範の内容を踏まえると、日本の工場が特に注意したいのは次の5つです。
①労働時間の管理|残業を含めて週60時間以内、7日に1日以上の休日。日本の法令を守っていても、RBA基準で指摘される場合があります
②就業規則の中の減給・罰金規定|懲戒としての賃金控除は、規範で認められていません
③非常口・避難経路|施錠、物品によるふさがり、扉の開く方向、ワンアクションで開かない扉
④寮・食堂など生活施設の衛生|非常口の要求は寮にも及びます
⑤是正の仕組みと記録|問題を直しても、直したことを文書で示せなければ評価されません
監査の頻出指摘は、遠い外国の特殊な話ではなく、労働時間の管理や就業規則、そして非常口といった、日本のどの工場にもある日常の中に潜んでいます。まずはこの5つを自社に当てはめて、思い当たる点がないかを確認することが、監査準備の第一歩になります。
非常口に鍵をかけてはいけない?法令が認める「2つの例外」

RBA監査で指摘されやすいポイントの多くは、就業規則や労働時間の管理など、社内の制度や運用にかかわるものです。その中で少し性質が違うのが「非常口」です。
非常口の場合、問題は社内の運用ではなく、扉そのものにあります。防犯のためには施錠しておきたい扉を、避難のためには、誰でもすぐ開けられるようにしておく必要があります。1枚の扉に、正反対の役割が求められているのです。実は日本の法令は、このジレンマへの答えを用意しています。
火災予防条例|施錠は原則禁止。ただし2つの例外がある
各自治体の火災予防条例は、避難口の戸への施錠を原則禁止としたうえで、次の2つの例外を認めています。
屋内から、鍵を使わずに簡単に開けられる構造のもの
非常時に、自動的に解錠される機能を持つもの
また、建築基準法施行令第125条の2という規定でも、避難に使う出口の錠は「屋内から鍵を使わずに開けられること」、そして「開け方を扉の近くの見やすい場所に表示すること」が定められています。
施錠してはいけない、のではありません
法令が禁じているのは、「開けられない扉」です。鍵なしで開けられる形か、非常時に自動で開く形なら、施錠しても良いということになります。防犯と避難は、正しい設備を選べば両立できます。次のセクションでは、この2つの例外を満たす具体的な設備を紹介します。
「防犯」と「避難」を両立する4つの設備

ここからは、「防犯」と「避難」を両立する設備を、本コラムを運営する当社(ゴールドマン株式会社)の取り扱い製品からご紹介します。当社はドアまわりの建築金物の専門会社で、製品の輸入から販売・施工・メンテナンスまでを一貫して手がけています。
いずれの設備も、今ある既存のドアに後から取り付けることができます。扉ごと交換する大がかりな工事は前提にしていないため、操業を続けながらの改修を検討できます。
監査でよくある指摘と、それを解決する設備の対応は、次の通りです。
パニックバー|押すだけで開く。でも外からは入れない

パニックバー|Klacci 1000 シリーズ
パニックバー(緊急退避装置)は、扉の内側に取り付ける横長のバーです。逃げる人が体で押すだけで、解錠と開放が同時に行われます。外側からは、鍵などで普段どおり施錠管理ができます。つまり、内部からは誰でも開けて出ることができ、外部からは入れない扉になります。
欧米では、非常口への設置が標準になっている設備です。日本でも、コストコやIKEAといった海外発の大型店舗で、非常口に横長のバーが付いた扉を見かけた方は多いのではないでしょうか。あれがパニックバーです。国際基準を前提とするRBA監査への対応で、これほど分かりやすい設備はありません。
あわてていても、両手がふさがっていても、暗くても、体で押すだけで開けられます
片開き・両開き、面付け型・埋込み型など、扉の形状に合わせて選べる豊富なシリーズを取りそろえています
防火戸用の製品もあり、防火区画の扉にはそのまま取り付けられます
外資系企業や大使館、米軍施設など、国際基準での安全管理が求められる施設への納入実績があります
アシスト・スイング®H.D. コンシールド型(内蔵型)
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー49F
apothéose(レストラン)エントランス
アシスト・スイング®Slim-SW300 面付け型
三菱地所 某オフィス
アシスト・スイング®Slim-SW60 面付け型
住友不動産 新宿区某ビル
電気錠|普段は防犯、火災時は自動で解錠
電気錠は、電気の力で施錠・解錠をコントロールする錠の総称です。普段はしっかり施錠して入退室を管理し、火災報知設備や煙感知器の信号を受けると、自動で解錠します。「施錠したい、でも逃げ道は確保したい」という矛盾を、仕組みそのもので解決してくれる設備です。
停電すると解錠されるタイプを選べば、電源が落ちても避難経路を確保できます
火災報知設備との連動や一斉解錠など、消防の基準に沿った構成が組めます
電磁石で施錠するマグネット電気錠のほか、電気ストライク、ドロップボルトなど種類があり、扉の形状や用途に合わせて選べます
ICカードや暗証番号、顔認証などの入退室管理システムと組み合わせれば、「誰が・いつ・どの扉を通ったか」の記録も残せます。RBAが求める管理の仕組みづくりにも役立ちます
電気錠と入退室管理システムは、当社が一括でご用意できます。錠は錠前屋、認証機器はセキュリティ会社、と発注先が分かれると、機器の相性の確認や不具合時の窓口が悩みの種になりがちです。当社なら、機器の選定・提案から施工、導入後の保守まで、窓口ひとつで完結します。

床取付型

壁面付型

壁埋込型

引き戸用
台車や人の通行のために、防火扉をくさびなどで開けたまま固定してしまうことがあります。そうした現場の事情に、正しい形で応える装置が電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」です。電磁石の力で扉を開けた状態に保ち、火災報知の信号を受けると、自動で扉を放して閉めます。
くさびを外して「通行の不便」に戻るのではなく、開けたままの便利さを合法な形で残せます。
普段の通行のしやすさと、火災時の確実な閉鎖を両立できます
「防火扉が適切に機能しない」という監査指摘への、直接の対策になります
床取付型・壁埋込型・壁面付型など設置場所に合わせた型に加え、重量ドア用や防水・防爆型まで、工場の多様な環境に対応するラインナップがあります
RBA対応を進める4つのステップ

取引先からRBA対応を求められたら、何から手をつければよいのでしょうか。進め方は、大きく4つのステップに整理できます。①SAQで現状を把握する、②規範との差を洗い出す、③差を埋める、④監査で確認を受ける、という流れです。順番に見ていきます。
STEP1|SAQで現状を把握する
まずは、取引先から案内されるSAQ(自己評価質問票)に回答します。SAQは「RBA-Online」という専用のオンラインシステム上で行い、日本語にも対応しています。質問票には、会社全体について答えるものと、工場ごとに答えるものの2種類があります。
回答すると、リスクの度合いが判定されます。目安は、得点率80%以上で低リスク、60〜79%で中リスク、それ未満は高リスクです。高リスクと判定されると、取引先から監査を求められる可能性が高くなります。
STEP2|規範との「差」を洗い出す
次に、自社の現状とRBA行動規範の要求を見比べて、足りていない点を洗い出します。SAQの回答過程で見つかった弱点に加えて、現場を実際に歩いて確かめることが大切です。非常口は施錠されていないか、避難経路に物が置かれていないか、防火扉はきちんと閉まるか。机の上だけでは分からない差が、現場には残っています。
RBAは、監査に備えるための自己点検ツール「VAP Prep Tool」も用意しています。本番の監査と同じ観点で確認できるため、差の洗い出しに活用できます。
STEP3|差を埋める(規程の見直し+設備の改修)
洗い出した差を、一つずつ埋めていきます。対応は2種類に分かれます。就業規則や労働時間管理のような「規程・運用の見直し」と、非常口や防火扉のような「設備の改修」です。
進め方のポイントは、時間のかかるものから着手することです。監査で指摘を受けてからの是正には、期限が設けられます。たとえばCiscoは、最重要の指摘は30日以内、その他の指摘は180日以内の対応をサプライヤーに求めています。指摘されてから慌てないためにも、見つけた差は監査前に埋めておくのが理想です。
STEP4|監査(VAP)で確認を受け、認定をめざす
最後に、必要に応じてVAP監査を受けます。指摘が出た場合は、是正計画(CAP)を提出し、期限内に直したうえで、完了を確認する監査(クロージャー監査)を受けます。すべての対応が完了すれば、点数に応じてPlatinum・Gold・Silverの認定が得られます。
是正は、点数を上げる機会でもあります。AMDの公開データでは、2024年に初回監査と確認監査の両方を受けた工場は、平均で7%スコアが上がりました。SilverからPlatinumへ認定を上げた工場もあります。指摘は「終わり」ではなく、認定と信頼につながる通過点です。
要請が届いてから監査までは、数カ月単位で進むのが一般的です。全体像を押さえたうえで、時間のかかる項目から順に手をつけることが、無理のないRBA対応の進め方です。
RBA行動規範に関するよくある質問
RBA行動規範について特に多く寄せられる質問を、Q&A形式でまとめました。内容のおさらいとしてもご活用ください。
Q1. RBA行動規範への対応は、法律上の義務ですか?
A. 法律上の義務ではありません。ただし、RBA会員企業は取引先にも規範の実施を求めるため、会員企業と取引がある場合は、事実上の取引条件として対応が必要になることがあります。
Q2. RBA行動規範のセクションは4つですか、5つですか?
A. 5つです。「労働」「安全衛生」「環境」「倫理」の4分野(セクションA〜D)に、それらを守り続ける仕組みである「マネジメントシステム」(セクションE)を加えた、5セクション・計42項目で構成されています。「4つ」という説明は、A〜Dの4分野だけを数えたものです。
Q3. VAP監査の合格基準を教えてください。
A. 合格・不合格ではなく、200点満点のスコアと指摘の是正状況で評価されます。すべての指摘を是正して200点満点ならPlatinum、180点以上でPriority・Majorの指摘を是正すればGold、160点以上でPriorityの指摘を是正すればSilverの認定が得られます。
Q4. RBAの加盟企業itには、どのような会社がありますか?
A. Apple、Amazon、Ciscoなどの米国企業のほか、日本からもキオクシア、キヤノン、エプソン、村田製作所、任天堂などの大手メーカーが加盟しています。加盟企業の一覧は、RBA公式サイトの「Members」ページで公開されています。
出典:Responsible Business Alliance「Members」
https://www.responsiblebusiness.org/about/members/
Q4. 非常口を施錠していると、監査で指摘されますか?
A. 避難時に開けられない状態の施錠は、指摘の対象になります。ただし、屋内から鍵を使わずに開けられる構造(パニックバーなど)や、非常時に自動で解錠される仕組み(火災報知設備と連動した電気錠など)であれば、施錠していても問題ありません。日本の火災予防条例も、同じ考え方で例外を認めています。
まとめ|RBA行動規範の要点と対応の進め方
RBA行動規範は、労働・安全衛生・環境・倫理の4分野とマネジメントシステムからなる、5セクション・計42項目の国際基準です。取引先がRBA会員であれば、対応は事実上の取引条件になります。守れているかどうかはSAQとVAP監査の2段階で確認され、監査は200点満点で採点されます。国内でも京セラやブラザー工業のように、満点でPlatinum認定を取得した工場が実際にあります。
監査で指摘が集中するのは、CiscoやAMDの公開データが示すとおり、「労働時間」と「緊急時への備え」です。中でも非常口は、防犯のための施錠と避難のための開放という、相反する要求を1枚の扉が背負う難しさがあります。しかし日本の法令は、この両立の方法を用意しています。鍵なしで開けられるパニックバー、非常時に自動で解錠する電気錠など、正しい設備を選べば、防犯を守ったまま監査の要求を満たせます。
RBA対応は、現状把握、差の洗い出し、是正、監査という4つのステップで進みます。まずはSAQへの回答と、自社の非常口・避難経路の確認から始めてみてください。設備面の対応については、当社が製品の選定から施工、メンテナンスまで一貫してお手伝いします。図面や現場写真をもとにしたご相談も、ショールームでの実機のご確認も可能です。RBA対応は、働く方の安全と職場のセキュリティを見直す機会にもなります。
当社ではRBA対応に役立つ
ドア設備の工事・メンテナンスを承ります!

当社では、本記事で紹介したパニックバー、電気錠、電磁レリーズ「マグネット・ドアホルダー」、アシスト・スイング®の販売、新規工事・改修工事・メンテナンス工事を行っております。扉の種類や防火区画の要件、既設の防災設備との連動を考慮し、最適な製品と組み合わせをご提案いたします。
いずれの設備も、既存の扉への後付けに対応しています。工事期間を最小限に抑え、操業や施設運営に支障が出ないよう配慮しながら作業を進めさせていただきます。入退室管理システムとの連携や、「普段は自動ドア、非常時は避難扉」といった複数製品の組み合わせも含め、セキュリティ要件に合わせたご提案が可能です。
導入後の定期点検・メンテナンスも承っております。緊急時に確実に作動する状態を維持することが、監査への備えにも、働く方の安全にもつながります。図面や現場写真をお送りいただければ、具体的なご提案が可能です。新横浜のショールームでは、実物の動作もお確かめいただけます。









